アーユルヴェーダ基本シリーズ(全6回) 第5回

健康

アーユルヴェーダ的生活習慣:ディナチャリヤとリトゥチャリヤ

「アーユルヴェーダ基本シリーズ(全6回)」 第5回

はじめに

アーユルヴェーダと聞くと、「なんだか難しそう」「特別な知識が必要なのでは?」と感じる方も多いかもしれません。でも実は、アーユルヴェーダは私たちの日常に根ざした”暮らしの知恵”。特別なことをするのではなく、体の声を聞きながら、自然と調和して生きるための考え方です。

本記事では、アーユルヴェーダ初心者の方にもわかりやすく、基本的な4つの用語――ディナチャリヤ(1日の過ごし方)、リトゥチャリヤ(季節の過ごし方)、ヴィハーラ(生活習慣)、そしてスヴァスタ・ヴリッタ(健康を保つための心得)について紹介します。それぞれの意味と実生活への活かし方を、やさしく解説していきます。

アーユルヴェーダの視点で「健康」とは何か?(スヴァスタの理解)

アーユルヴェーダにおける「健康」とは、単に「病気がない」状態ではありません。サンスクリット語で「スヴァスタ」と呼ばれるこの状態は、「ドーシャ(体質のエネルギー)が整い、消化力が適切に働き、感覚器官と心が安定し、魂が満たされていること」を意味します。

現代医学が主に病気の治療にフォーカスするのに対し、アーユルヴェーダは「未病(まだ病気になっていないけれどバランスが崩れている状態)」や、日々のセルフケアによる予防を重視しています。

そのため、スヴァスタであり続けるためには、自分の体や心の状態に常に気づきを持つことが大切です。たとえば、「最近疲れやすい」「食欲が落ちている」「なんとなくイライラしやすい」など、小さなサインを見逃さずに丁寧に向き合う姿勢が求められます。

アーユルヴェーダは、医学というよりも“自分を観察し、自分を整えるための生活の知恵”としての側面が強いのです。

ヴィハーラ(Vihara) – 日常の生活習慣

「ヴィハーラ」とは、日々の行動やライフスタイル全般を意味します。アーユルヴェーダでは、どんな生活をしているか――食事、睡眠、仕事、人間関係――が健康に大きく影響すると考えます。

まず、仕事や人づき合いの中で、無理をしていないか? 自分を消耗するような習慣に偏っていないか? という視点が大切です。たとえば、休みなく働いていたり、自分の感情を押し殺して付き合っている人がいたりすると、心のバランスが崩れ、体にも影響が出てきます。

アーユルヴェーダでは「快(好きなこと)」と「不快(嫌なこと)」を自分自身でしっかりと感じ取ることを大切にします。現代社会では、この“感覚の声”を無視してしまいがちですが、それが健康のサインでもあるのです。

感情の波に気づき、無理に抑え込まずに受け止める。ときには距離を取る。そんな日々の選択が、心身の安定=健康に直結します。

健康を維持するためのヴィハーラのポイント

  • 規則正しい生活リズムを守る:毎日同じ時間に寝起きし、食事をとる。
  • 適度な運動を取り入れる:ヨガやウォーキングなど、体を無理なく動かす習慣をつける。
  • 心のケアを意識する:瞑想や呼吸法を活用し、ストレスを減らす。
  • デジタルデトックスを行う:寝る前のスマホやPCの使用を控え、深い睡眠を確保する。

ディナチャリヤ(Dinacharya) – 理想的な1日の過ごし方

「ディナチャリヤ」とは、アーユルヴェーダにおける1日の理想的な過ごし方のこと。規則正しい生活リズムを保つことで、ドーシャのバランスが整い、健康が保たれると考えられています。

まず朝は、日の出前に起きるのが理想とされています。これは自然界の静けさと調和する時間帯であり、心身に穏やかさをもたらします。起床後は、舌の汚れを取り除く「舌掃除」、口腔内を清める「オイルうがい(ガンドゥーシャ)」、軽い運動やストレッチ、そして短い瞑想などが推奨されます。

朝食は消化にやさしい温かいものを選び、日中は最も消化力が高まる正午前後にしっかりと食事をとるのが理想です。夕方以降は徐々に心と体を落ち着け、夜は消化に負担の少ない夕食を。就寝は22時ごろまでにすることで、睡眠の質が高まり、翌朝もすっきりと目覚められます。

現代人の生活スタイルではすべてを完璧に実践するのは難しいかもしれませんが、ひとつずつ、自分にできることから取り入れていくことが大切です。たとえば「舌掃除」や「夜のスクリーン時間を控える」など、小さな工夫が体調改善につながります。

理想的なディナチャリヤの流れ

  1. 朝起きる(ブラフマ・ムフルタ:日の出前の時間)
    • 目覚めたらまず白湯を飲み、体内の老廃物を排出する。
    • 舌磨きをして口内の毒素を取り除く。
  2. 排泄を促す
    • 朝の排泄を習慣づけることで、体のデトックスをスムーズにする。
  3. オイルマッサージ(アビヤンガ)
    • セサミオイルやココナッツオイルを使い、全身をマッサージすることで血行を促進。
  4. 入浴と浄化
    • シャワーやお風呂で体を清潔に保ち、心身をリフレッシュ。
  5. ヨガとプラーナーヤーマ(呼吸法)
    • 軽いヨガや呼吸法を行い、エネルギーを高める。
  6. 朝食(ドーシャに合った食事を摂る)
    • ヴァータ・ピッタ・カパに応じたバランスの取れた食事を心がける。
  7. 日中の過ごし方
    • 活動的な時間帯を有効活用し、適度に休憩を入れる。
  8. 夕方のリラックスタイム
    • 軽いストレッチや散歩をし、心身の緊張をほぐす。
  9. 夜の食事と睡眠準備
    • 夕食は軽めにし、寝る2時間前までには食事を終える。
    • 寝る前に温かいハーブティーを飲み、リラックスする。
  10. 就寝(理想は22時までに)
    • 睡眠の質を高めるため、電子機器を控え、暗い環境で寝る。

リトゥチャリヤ(Ritucharya) – 季節ごとの健康管理

「リトゥチャリヤ」は、季節(リトゥ)に応じた暮らし方のこと。アーユルヴェーダでは、季節ごとに自然界のエネルギー=ドーシャが変化すると考えられており、その影響を受ける私たちの心身も、季節に合わせて調整する必要があります。

たとえば、夏は太陽の力が強まり、体内の熱エネルギー「ピッタ」が増えやすい季節。ピッタが乱れると、怒りっぽくなったり、胃の不快感や肌トラブルが出やすくなったりします。そこで、夏は辛いものやアルコールを控え、冷却作用のあるきゅうりやココナッツウォーターなどを取り入れるとバランスがとれます。

春はカファ(重たく湿ったエネルギー)が増える季節で、眠気やだるさ、花粉症などが出やすくなります。適度な運動やスパイスの効いた温かい食事を心がけると、カファの滞りを防げます。

秋から冬にかけてはヴァータ(風のエネルギー)が高まりやすく、乾燥や冷え、不安感が生じやすくなります。この時期は温かいオイルマッサージや、煮込み料理などを意識して、体と心を温めることがポイントです。

日本の四季にもリトゥチャリヤの考え方はよくなじみます。自然の変化に寄り添いながら、体調の波を受け入れ、無理をしないで整えていく――それがリトゥチャリヤの基本です。

季節ごとの生活習慣のポイント

  • 春(ヴァータ増加期):デトックスを意識し、軽い運動を取り入れる。
  • 夏(ピッタ増加期):涼しい場所で過ごし、辛い食べ物を控える。
  • 秋(ヴァータ増加期):温かいスープやオイルマッサージで体を潤す。
  • 冬(カパ増加期):体を温める食材を摂り、適度な運動を心がける。

スヴァスタ・ヴリッタ(Swastha Vritta) – 健康を維持する習慣

「スヴァスタ・ヴリッタ」は、健康な状態(スヴァスタ)を保つための行動指針のようなもの。アーユルヴェーダでは、健康は一時的な状態ではなく、“保ち続ける”ものだと考えます。

そのためには、食事のとり方や、行動の選び方、他者との関係性など、日々のあらゆる場面での意識が求められます。たとえば「お腹がすいたときに食べる」「怒りの感情にまかせて発言しない」など、ごく基本的だけれど忘れがちなルールこそが、健康の土台になります。

スヴァスタ・ヴリッタは、「医者にかからないことを目指す」暮らし方とも言えます。自分の心と体の変化に日々気づき、小さなズレを整える。それがアーユルヴェーダの目指す、本質的な“予防”の姿です。

おわりに

アーユルヴェーダの基本用語を知ることで、自分の暮らし方を見直すヒントが見えてきます。すべてを一度に実践する必要はありません。今日からできる小さなことから、少しずつ始めてみませんか?

次回は「アーユルヴェーダの治療と哲学」について解説します。お楽しみに!

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